構造強度不足事件について

冒頭に、知り合いのある建築設計士の弁をのせたい。3年前くらいに彼がしんみりと、若干自嘲気味に語ってくれた。
「僕ね、この間計算したんですよ。僕の時給っていくらくらいかなーって。そしたらですね、時給500円くらいだったんですよ。そのときは、あー少ないな、って感じだったんですけど、よく考えてみれば、これってコンビニのバイトより少ないですよね。これってつまり、僕がやってる業務っていうのが、コンビニで働く業務よりも、評価が低いというか、専門性が低いというか、そういうことなんだなーって。ちょっと悲しかったですね。仮にも建築屋として、これだけの物件を手がけてきて、実務の知識、ノウハウはかなり持ってるつもりなんですけどね」
さて、建築確認申請で、建築物の構造強度不足が発覚した件について。私の11/13のブログにちゃめさんがTBを貼ってくれているが、彼の意見と全く同意見である。
容疑者である一級建築士の犯した罪は重い。それ相応の罰を受けなければならないだろう。逆に同情の念も禁じえない。おそらくは相当の負荷が彼にかかったのであろう。設計事務所の報酬の少なさには、私も怒りを覚えるほどで、おそらくこの建築士は、それほど稼げていないかったであろう。普通に生活できる程度の収入しか得られていなかったであろう。
建築計画のプロセスは、まず建築家が基本プラン、デザインを考える(建築設計)。その案を基に設備設計が設備(空調、給排水、電気など)の納まりを検討する。同時に、構造設計が、柱・梁・床などの必要な強度を計算する。
ここで求められるのは、設備はいかに狭いスペースで納めるか、構造はいかに少ない鉄筋・鉄骨・コンクリートに納めるか、いかに小さい柱、梁にするか、ここが腕の見せ所なのである。(前提条件や、応力伝達モデルの設定次第で、計算結果はいくらでも変えられる。優秀な構造屋とは、それらの中から最も経済的な解を導き出せる人のことなのである)
例えば、ある建物を見積もる。50億だったとする。予算オーバー。もっと削れと言われる。外壁が石貼りだった。石をタイルに変えれば安くなる。だがデザイナーがいう。「ここがタイルになるなんてありえないよ。構造でもっと削れないの。ここの梁なんて、こんなに大きくなくていいんじゃない?」などと。
この世のすべての建物で、計画時にこんなやり取りがあったと思って間違いない。
そう、構造設計屋に求められるのは、いかに少ない量の鉄筋・鉄骨に設計するか、これなのである。そのために、彼は禁じ手を使ってしまった。おそらく彼は優秀な構造設計屋として重宝されていたのであろう。そりゃそうだ。抜群に少ない鉄筋・鉄骨量で、しかも小さい柱・梁に納めてくれるのだから。
でも彼の報酬は少なかったであろう。設計の報酬はほんと笑っちゃうくらい少ないから。これほどの悪事を働いておきながら、たいして稼げない。そこに今回の事件の皮肉を感じる。