『亡国のイージス』感想

「なんで俺のときに・・・」
首相に語らせたひとりごとにこめられた痛快な皮肉。
映画『亡国のイージス』で、イージス艦いそかぜ」が乗っ取られ、
国防総省に召集された際に首相が漏らした一言である。
 
国家の在り方、国防の在り方という、今、日本で最も重いテーマ。
これに真正面から取り組んだ原作は、
日本推理作家協会賞日本冒険小説協会大賞大藪春彦賞の3賞を受賞し、
58万部以上も売れたという。
大いに期待して劇場に出向いた。
 
(以下、感想。ネタばれ注意)
 
出だし前半はまずまずであった。
死亡した防衛大生の論文の朗読シーンや、
冒頭で述べた首相のひとりごとシーン、さらに引き続いての
イージス艦いそかぜ」と、某自衛隊戦艦(名前は失念)の戦闘シーンは
必見。ものすごくかっこいい。
 
ただ、後半が、ぼやけた印象に感じられたのが残念だ。
主旨が一貫していないというか・・。
この作品は、今の日本の防衛体制に疑問を投げかける、
はっきり言えば否定する、というのが主眼であったと思う。
が、結末は、
首相以下、一丸となって、危機に立ち向かい、回避することが出来た、
ハッピーエンド。
という筋書き。
これでは、日本の組織は今のままでOK、
とでも言いたいかのようだ。
(ほんとはそうなのか? オッケーといいたいのか?)
もう少しひねりがほしかった。
例えば、グソーが紛失して、どうなったか、
どこへいったか分からないという結末だとか、
結局アメリカ軍に助けてもらい、やっと事なきを得ただとか、
あるいは、政府高官の指導を見切った自衛隊独自の行動が功を奏しただとか
・・・・。
とにかくラストが弱い。余韻が少ない。
そこが残念であった。
 
笑ったのは、日本人が、優柔不断というか、
意思が弱ーい感じで描かれていたこと。
イージス艦を乗っ取った犯行グループは日本人グループと、
北朝鮮人グループに分かれるのだが、
中井貴一率いる北朝鮮人グループが、迷いのかけらもないのに対し、
寺尾聰率いる日本人グループが、国防総省の人間らの説得に
どんどん心揺らいでいくところ。
正直、見ていて、
「おいおい、これだけのことをしておきながら、そのくらいの
 説得で動揺するなよ」
と、励ましてやりたくなるくらいだった。
もっと言うと、
「あの程度の決意でこんな乗っ取り事件を起こせるかー」
と、映画自体に突っ込みたくなるくらいだった。
 
最後に、俳優について。
勝地涼くん、かっこよかったぞ。
吉田栄作、久しぶり。やっぱり君ってかっこいいんだね。
原田芳雄さん、今年の日本アカデミー賞助演男優賞はあなたです。
真田広之、ふけたな。