内覧会

これからマンションの購入を予定している人に、是非言っておきたいことがある。善良で誠実なゼネコン社員の悲痛な叫びとして聞いていただきたい。
新築のマンションを購入するとき、「内覧会」というものが実施される。それは住戸を購入したエンドユーザーへの、完成した住戸のお披露目式なのであるが、重要なのは、それが検査をかねていることだ。
上司がかつて言ったことがある。
「昔おれが若かった頃、20年くらい前だが、入社3年目くらいでマンションを作った。一生懸命がんばって作ったマンションが完成し、内覧会を開いたときは、来る人みんなが、喜んでくれてな。ここを直してくれなんて指摘事項は、せいぜい1戸あたり3個くらいしかなかったもんだ。なにより、みんなが喜んでくれて、本当にうれしかった。
ところが今じゃ、みんな、「なにか手抜きされてないか」みたいな猜疑心いっぱいの目で見に来るよな。昔おれが作ったときより、比べ物にならないくらいマンションの出来はよくなってるのに、誰もほめてくれる人はいない。さみしいよな。」と。
そうなのだ。私が皆さんに言いたいのは、「いいものをつくってくれてありがとう」と、ゼネコン社員に、ねぎらい、いたわりの言葉をかけてやってほしいのだ。
はっきり言います。ゼネコン社員はみなまじめに、いいものをつくろうとがんばっている。特にマンションなんか、最も高い品質を要求される建物であり、たいていディベロッパーから無理な工程を押し付けられているから、ほとんど休みなく働いて作っているのだ。
数年前、私がマンションを作ったときも、全体工期が1年2ヶ月だったが、最初の11ヶ月が休みは日曜だけ、最後の3ヶ月は休み無しだった。しかも、朝8時に朝礼が始まり、夜は10時過ぎまで仕事する。家に帰れない日も決して珍しくない。
やっと建物が完成しても、「内覧会」に到るまでの道のりが実に険しい。まず、現場内での自主検査に始まり、続いて消防検査、建築指導課検査など、諸官庁の検査を受ける。そしてゼネコンの社内の品質検査。設計事務所の検査。さらに、ディベロッパーの検査をくぐりぬけなけてやっと、内覧会なのである。
この検査・検査・検査・・・これがどれだけゼネコン社員を消耗させるか、体験しなければ分からないだろう。それだけの厳しい検査をくぐりぬけてやっと、エンドユーザー、お客様にご覧頂いてもらえるわけである。
しかし、そこでゼネコン社員に待っているのは、「なにか手抜きしてんじゃねえだろうな」というエンドユーザーの猜疑の目である。
一生懸命、いいものを作ろうと日曜日も返上して働き、異常なほど繰り返される検査をくぐりぬけて、最後に待つものが、エンドユーザーの冷たい目なのである。
自分で書いてて泣けてきた。あまりにかわいそう過ぎる。
もう一度言いたい。内覧会では、「いいものを作ってくれてありがとう」と、ゼネコン社員をいたわってあげてください。そうすれば、きっとそのゼネコン社員は涙のひとつ流すだろうから。
☆追記☆
ちなみに、一度だけ、内覧会で「いいの作ってくれたね、ありがとう」と言われたことがある。そのご夫婦は室内をさーっと簡単に見た後、ベランダに出て景色を満喫し、「いやー、きれいに出来てるねー」と終始うれしそうだった。そして、5分くらいで、「ありがとう」とお礼を言って帰っていった。検査指摘事項はなし。
その他の方々とのギャップがあまりに激しくてよく覚えているのだが、「ああ、こういうひとのことを幸せというんだな。こういうひとになりたいな」と、妙にひとり納得してしまったのを覚えている。