大学生になったころ(4)

私のいた大学は、三重県賢島から、船で1時間ほど行ったところにある無人島に保養施設をもっていた。通称「海の家」。
毎年夏、7月の終盤にクラブで行くのが恒例で、大学を出るまで7年間、毎年通い続けることになった。その1回目、1年生のときの話。
近鉄特急で賢島駅に到着した我々は、すぐ、夜の宴会に備え、調達に走った。先輩たちに呼ばれ、酒のコーナーに行く。異様にでかいウイスキーのボトルがあった。先輩はこれを買うという。その酒こそ、私がきっと一生わすれないであろう酒。サントリーレッド。
調達を終え、船に乗り込み、海の家へ向かう。真珠の養殖の網が、いたるところ張られる英虞湾を進む。太平洋なのにとてもおだやか。そして、実にいい天気だ。途中1回、船を乗り換え、しばらく行くと、先輩が指差して教えてくれた。「あれが海の家だ」
確かに小さな島だった。堤防から小さな桟橋が伸びており、その向こうに狭い庭と、小さな小屋が見える。それが海の家。バックには木々の茂った丘が控えていた。
この平和なひとときが過ぎ去ったあと、あのような悲惨な夜が待っていようとは露ほどにも思わなかった。
水着に着替え、海へ行くもの、座敷でだらだらしゃべるもの、いろんなグループに分かれるが、私はやっぱり麻雀グループ。ついて草々から晩飯までずっと麻雀して過ごす。夕飯を終え、風呂に入ったら、さあ宴会だ。
家に帰る必要は無い。飲みつぶれたらそのままそこで眠ればいい。そして僕らにはサントリーレッドがあった。条件は整った。整いすぎていた。
みんなわいわいしゃべりながらビールを飲む。日本酒もある。焼酎もある。いくらでもある。まだ、サントリーレッドには到達しない宴たけなわ。M先輩が叫ぶ。「よっしゃ、一気大会始めよか」
飲み終わったら、グラスを逆さにして頭の上に置くこと。置くのが早いほうが勝ちだ。
まずはかわいくビールの一気飲みが始まる。1,2年生が全員起立で勝負。勝ったやつから抜けていき、負けたやつが残るというルール。人数がそこそこいるので結構つらい。私はかなり遅いほうで、10数杯飲んだ。
きつー・・・。そう思っているところに先輩が畳み掛ける。「よっしゃ、今度はサントリーレッドで一気や」
なにっ! ウィスキーを一気? 冗談止めてくれ、そんなん飲めるわけが無い。私は言った。「ちょっとー、勘弁してくださいよー」
そんな私の弱気の声を聞いて、「お前が飲まへんのやったら、俺が飲んだるわ」と言ったやつがいた。彼の名はT。私の同期で、愛媛出身のやつだ。相当彼も酔っていたんだろう。
しかし私も相当酔っていた。「何? なんでお前にそんなこと言われなあかんねん!」 こうなったらお互い後には引けない。突如、彼と私の、サントリーレッド一気のみ大会が始まった。
勝負! よーい、ドン・・・・・・・コチッ、コチッ(頭の上にグラスをおく音)・・・・「勝ち、T」
負けた・・・くそー、もう一回勝負や!
よーい、ドン!・・・・・・コチッ、コチッ・・・・・「勝ち、T」
また負けた。くそー。
熱くなっていくのを止められなかった。異常に盛り上がった場は、「俺も俺も」というおろかな参加者を生み、大人数でのサントリーレッド一気のみ大会へと進展していった。
しかし私は負け続けた。何回やっても最下位なのであった。そして、7回目か8回目だろうか、ついに最下位を脱出することが出来た。
「やった・・・」
そのあとのことは覚えていない。気付いたとき、私はトランクス一枚しか身にまとわず、畳の上に突っ伏していた。真っ暗な宇宙の中を漂流しているように、体が宙を回り続けていた。確かに無数の星が見えた。天地の区別もなかった。そして頭も胸もお腹も全てが気持ち悪かった。意識を失うことを祈った。
しばらくして少し症状がましになると、私のそばにもうひとり倒れているものがいるのに気付いた。Tであった。彼もトランクス一枚であった。やつも同じ苦痛を味わっているのだろうか。
昼になり、やっと体を起こすことが出来るまで体調が回復した私たち二人は、昨日あれから何があったのか、周りのみんなに尋ねてまわった。
私の方はかわいかった。一気のみが終わった後、ばたんと横になったかと思うと、突然起き上がり、「俺は絶対負けへん!」と叫んで、またぶっ倒れたそうだ。その後、活火山のようにげ○を吐きまくり、着ていたものがどろどろになったので、服を脱がせ、パンツ一丁にして寝かせておいたんだそうな。
一方、Tの方は悲惨だった。自分のしたことを知った彼は言った。「俺、もうクラブやめるわ」
彼が何をしたか、書くべきか書かざるべきか・・・もちろん書いてしまうのだが、彼はまず失禁したんだそうな。彼が寝ている横で、女の子たちがトランプをしていた。するとひとりの女の子が叫んだ。なんか、濡れてるー。そう。彼が、失禁していたのだ。
そして、彼はとんでもないことを言ってしまったのだ。(このあとは、削除します。読んでしまった方、忘れてください。読んでない方、ごめんなさい)